現在表示しているページ
ホーム > 大学案内 > 広報 > 平成30年11月29日(木) 14:00~14:30
ここから本文です

記者発表

早産におけるケモカインの役割解明と治療展望

発表日時 平成30年11月29日(木) 14:00~14:30
場所 和歌山県立医科大学図書館棟3階 生涯研修センター研修室
発表者 和歌山県立医科大学医学部法医学講座     講師 石田裕子
            産科・婦人科学講座 助教 溝口美佳

発表資料データダウンロード

発表内容

概要

早産とは妊娠37週未満での出産と定義されている。現在の周産期医学では妊娠22週0日以降の胎児は子宮外で生存することができる。しかし、早産で生まれる未熟児は周産期死亡の大きな原因であり、脳内出血・呼吸障害・循環不全・壊死性腸炎・未熟児網膜症など全身に合併症が生じる可能性が高い。その合併症のために成長発達や視力障害など長期間に渡り医学的にも生活面でもサポートが必要となる。早産で生まれる児の予後を改善するためには、早産そのものを減少させることが重要である。現在の早産治療は子宮収縮抑制剤でお腹の張りを抑えるものであるが、早産を減少させるという十分なエビデンスに乏しく、使用において重篤な副作用に注意しなければならない。早産の原因は感染を始め多岐に渡り、さらなる病態解明と新規治療法の開発が必須である。今回我々は、免疫細胞の遊走に関与するタンパク質であるケモカインシステムCX3CL1-CX3CR1系を制御することが早産の進行を抑制することを明らかにし、早産の新規治療法開発のための可能性を示した。

1. 背景

図1.早産早産とは正期産(37週0日)以前の分娩を言い、日本では妊娠22週0日から妊娠36週6日までの分娩が早産となる。妊娠週数が早い時期の小さく生まれた赤ちゃんほど、生命の危険や様々な合併症(脳・肺・腸・眼など)をきたす可能性が高くなり、新生児集中治療室での専門的な新生児治療が必要になる。早産は全妊娠の約5%程度に起こるとされている。その原因としては、体質、感染症、多胎妊娠、筋腫合併妊娠、円錐切除術の既往、羊水過多、喫煙などがあげられる。

早産になりかかっている場合、子宮の出口(子宮口)が開き,赤ちゃんが出てきそうな状態にある(図1)。破水(子宮内で胎児を包み、羊水が漏れないようにしている膜が破れて、羊水が流出している状態)をきたすこともある。治療では子宮口が開かないようにするために、子宮収縮を抑える目的で子宮収縮抑制剤を使用し、早産の原因になる細菌の膣からの上行感染を予防するために抗生剤を使用、子宮の入り口をくくる頚管縫縮術を行うこともあるが、現在の治療法では早産を減らすことはできず、早産児の予後を改善するために新たな治療法を確立する必要がある。

早産に種々の免疫細胞が関与していることから、免疫細胞の遊走に関与するタンパク質であるケモカインシステムを制御することが早産の抑制につながると考えた。ケモカインシステムのひとつであるCX3CL1-CX3CR1系の制御が、早産を抑制することを明らかにしたので報告することとした。

2. 研究手法・成果

【研究手法】

野生型マウスと、遺伝子操作によりCX3CL1の受容体であるCX3CR1を欠損したマウスを妊娠させ、妊娠15日目にLPS(Lipopolysaccharide,大腸菌の細胞壁の構成成分である毒素)を腹腔内投与して早産を誘発し、早産率を比較検討した。さらに、CX3CL1に対する中和抗体を野生型マウスに投与して早産率を検討した。

【成果】

野生型マウスとCX3CR1遺伝子欠損マウスで早産率を比較検討したところ、野生型で85.7%,CX3CR1遺伝子欠損マウスで12.5%となり、顕著にCX3CR1欠損マウスで早産が抑制された(図2)。さらに、抗CX3CL1中和抗体でその治療効果を検討したところ、早産率がコントロール群の87.5%と比較して37.5%と顕著に早産率が低下した(図3)。早産では炎症に関与するタンパク質(炎症性サイトカイン)であるIL-1β, IL-6, TNF-αや、子宮収縮作用を持つプロスタグランジンが上昇することが知られており、これらを産生する細胞の一つが白血球マクロファージである。野生型マウスと比べてCX3CR1遺伝子欠損マウスでは、子宮へのマクロファージの遊走が明らかに抑制されており(図4)、子宮でのIL-1β, IL-6, TNF-α,及びプロスタグランジンの発現が明らかに減少していた(図5)。以上のことから、CX3CL1-CX3CR1系が子宮にマクロファージを遊走させ、IL-1β, IL-6, TNF-α,及びプロスタグランジンを産生することで、早産に至ることが明らかになった。

図2.早産率(野生型マウスvs. Cx3cr1遺伝子欠損マウス) 図3.早産率(コントロールvs.抗CX3CL1中和抗体)
図4.子宮への浸潤マクロファージ 図5.炎症性サイトカイン及びプロスタグランジンの遺伝子発現

3. 波及効果

ケモカインシステムCX3CL1-CX3CR1系が、早産において子宮へのマクロファージの遊走及び炎症性サイトカインやプロスタグランジンの発現に関与していることを明らかにした。これらのことから、今後CX3CL1-CX3CR1系を分子標的とする新たな早産治療の開発が期待される。

掲載誌

Prevention of lipopolysaccharide-induced preterm labor by the lack of CX3CL1-CX3CR1 interaction in mice. PLOS ONE. 2018 Nov 6;13(11):e0207085.

和歌山県立医科大学医学部法医学講座     石田裕子・近藤稔和
            産科・婦人科学講座 溝口美佳・井箟一彦
金沢大学 がん進展制御研究所        向田直史